東京高等裁判所 平成6年(ネ)4672号 判決 1995年8月03日
横浜市南区吉野町四丁目一七番地
控訴人
株式会社ニュースタイン
右代表者代表取締役
菅沼則之
同所同番地
控訴人
菅沼則之
右両名訴訟代理人弁護士
江口英彦
東京都千代田区丸の内二丁目六番三号
被控訴人
三菱商事株式会社
右代表者代表取締役
島崎要
右訴訟代理人弁護士
中本和洋
同
倉橋忍
同
牧野美絵
同
鷹野俊司
東京都港区赤坂六丁目一七番五号
被控訴人
株式会社廣済堂出版
右代表者代表取締役
櫻井道弘
右訴訟代理人弁護士
柴田敏之
同
澤口秀則
同
小畑英一
同
本山正人
兵庫県姫路市北条梅原町一四五番地
被控訴人
佐想光廣
右訴訟代理人弁護士
山本美比古
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人株式会社ニュースタインに対し、各自七〇〇万円並びにこれに対する被控訴人三菱商事株式会社及び被控訴人株式会社廣済堂出版はいずれも平成四年一一月一二日から、被控訴人佐想光廣は同月一三日からそれぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人らは、控訴人菅沼則之に対し、各自三〇〇万円並びにこれに対する被控訴人三菱商事株式会社及び被控訴人株式会社廣済堂出版はいずれも平成四年一一月一二日から、被控訴人佐想光廣は同月一三日からそれぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
5 仮執行の宣言
二 被控訴人ら
1 被控訴人三菱商事株式会社及び同佐想光廣
主文と同旨
2 被控訴人株式会社廣済堂出版
主文第一項と同旨
第二 当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決一〇枚目表一〇行目を削り、同枚目裏四行目の「8」を「7」に改める。
二 同一一枚目表一行目の「8」を「7」に改め、同一〇行目の「クラブの」を「クラブを」に改め、同一一行目の「バランス点又は重心を中心に回転させ、バランスを取る」を「あるバランス点又は重心を中心に回転させた場合、バランスが取れるようにする」に改める。
三 同一四枚目表五行目の「知らなかったから、」の次に「仮に」を加え、同六行目の「るとの」を「ったとしても、そのことについて」に改める。
四 同一六枚目表五行目の「の重量配分を最も回転がスムーズに」を「について、最も回転がスムーズになされ、」に改め、同六行目の「することができる」を「することができるよう」に改める。
五 同一七枚目裏三行目の「被告佐想は」から同五行目までを「被控訴人佐想は、シャフトを軸としてクラブヘッドを回転させた場合、外力を極力生ぜしめないようにヘッドの重量を配分したのがダイナミックバランスだ」に改める。
六 控訴人らの当審における主張
1 被控訴人佐想は、平成二年ないし三年ころから本件と同じゴルフクラブを商品化して販売しているが、発表資料が公表された平成四年三月ころまでの間、右ゴルフクラブについて、ダイナミックバランスなる用語を使用することがなかった。それにもかかわらず、同被控訴人は、控訴人らの努力により「ダイナミックバランス」が業界に知られるようになった頃合を見計らって、何らの技術的裏付けのないまま右用語を使用するようになったものである。
これは、被控訴人佐想と被控訴人三菱商事が提携するに際し、既に控訴人らが巨費を投じてゴルフクラブにおけるダイナミックバランス理論の実用化を大々的に宣伝していたことを知り、同被控訴人らの宣伝文句として安易にこれを盗用したことによるものと思われる。
2 不正競争防止法二条一項一一号の「虚偽の事実」は客観的基準により判断されるべきである。すなわち、本件においては、被控訴人佐想のゴルフクラブが、力学上あるいは機械力学上の専門用語であるダイナミックバランス理論を実用化したものであるか否かが問われるべきである。しかるに、被控訴人佐想のゴルフクラブについては、それが力学上ないし機械力学上のダイナミックバランス理論に合致する旨の説明が一切なされておらず、更に、同クラブにおいては、<1>ヘッドが、重心点ではなくシャフト軸線を中心に回転するため、スウィング軌道が安定することがない、<2>偏重心を零としていない、<3>回転体の重心を通る慣性主軸の一つが回転軸と一致していないというものであるため、ダイナミックバランスとは全く関係のないものというべきである。他方、控訴人らのゴルフクラブは正しくダイナミックバランス理論を実用化したものである。
したがって、本件各記事の記載内容は明らかに虚偽のものというべきである。
3 本件各記事は、一般顧客のほか、ゴルフジャーナリスト、販売店の仕入担当者等を対象とするものであり、また、その記事が、「被控訴人佐想のゴルフクラブをもって、ダイナミックバランス理論の実用化の魁とするものともとれる内容である以上、既にダイナミックバランスの発明者として業界において大々的に宣伝活動をしていた控訴人会社にとっては、本件各記事中に、「ダイナミックバランス」の用語の説明がなされ、かつ、控訴人会社のゴルフクラブに対する言及がなかったとしても、右記事により、右ゴルフクラブに対する社会的評価及び控訴人会社の営業上の信用が損なわれるに至ることは必定である。
特に、控訴人らのゴルフクラブに関するダイナミックバランス理論を実用化した唯一無二のものであるという宣伝が疑われること、市場において、控訴人会社のゴルフクラブとともに、ダイナミックバランス理論を実用化したと称する紛い物のゴルフクラブが混在して流通することは、控訴人会社の特筆すべき信用低下というべきである。
4 本件各記事における「新しい設計思想」「ダイナミックバランスの開発」「被控訴人佐想の考え出した」との表現は、被控訴人佐想が、ダイナミックバランス理論をゴルフクラブに応用することについての第一発明者であるというに等しく、控訴人会社の営業上の信用を害する虚偽のものであることは明らかである。
5 本件各記事は、一般読者や顧客、記者等に、控訴人菅沼が被控訴人佐想の発明技術ないしアイデアを盗用したとの誤解を与える恐れが大である。したがって、右記事は、控訴人菅沼の名誉を毀損するものであることは明らかである。
七 控訴人らの当審における主張に対する被控訴人らの反論
1 被控訴人三菱商事
(一) 控訴人らの主張1の事実のうち、被控訴人三菱商事らが、被控訴人佐想のゴルフクラブについて、「ダイナミックバランス」の技術的裏付けのないまま右用語を盗用したとすることは否認する。右は、被控訴人佐想のゴルフクラブの特性から、被控訴人三菱商事が独自にその使用を決定したものであり、当時、同被控訴人は控訴人らのゴルフクラブについては全く知らなかった。
(二) 控訴人らの主張2ないし5は争う。
2 被控訴人廣済堂出版
控訴人らの主張1ないし5は争う。
「ダイナミックバランス」理論という用語の意味が機械力学上のものでしかありえないとすることは独善的な誤りである。また、控訴人らのゴルフクラブについて、「ダイナミックバランス」理論を実用化した唯一無二のものであるとの社会的評価がなされていた事実もない。
3 被控訴人佐想
(一) 控訴人らの主張1の事実のうち、被控訴人佐想らが、被控訴人佐想のゴルフクラブについて、技術的裏付けのないまま右用語を盗用したとすることは否認する。
(二) 控訴人らの主張2ないし5は争う。
(三) 被控訴人佐想は、従来のゴルフクラブの設計基準にとらわれず、独自の理念に基づいてクフブヘッドのヒールに重量を配したゴルフクラブを開発し、この開発理念を「ダイナミックバランス」として的確に表現し販売しているものである。控訴人らの主張は、「ダイナミックバランス」という用語については控訴人らのみが使用することができ、他の者には使用を許さないとの思い込みがあるにすぎない。
本件各記事においては、被控訴人佐想のゴルフクラブについて使用した「ダイナミックバランス」の用語の説明をしており、それにより、被控訴人佐想が右ゴルフクラブの特性を宣伝すること自体に全く適法であるし、また、そこには控訴人菅沼に関する記載は一切なく、同控訴人の名誉を害することはありえない。
第三 証拠関係は、原審及び当審における訴訟記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人らの本件請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断するが、その理由については、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決一九枚目表三行目の「被告ら」を「被控訴人佐想」に改め、同七行目の「、丁第一号証」を削る。
2 同二四枚目表四行目の「原告会社」を「被控訴人佐想」に改め、同五行目の「実現したものか」を「実現したものとはいえないか」に改める。
3 同二七枚目表八行目の「ゴルフクラブでダイナミックバランスを」を「ゴルフクラブについてダイナミックバランス理論の応用を」に改める。
4 控訴人らは、当審において、前記「事実」第二、六のとおり主張し、甲第二七号証を提出するが、いずれにしても、本件各記事において、被控訴人佐想のゴルフクラブをダイナミックバランス理論の応用によるものと記載したことが虚偽の事実を表示したものとはいえず(なお、本件各記事に接した読者、記者等は、本件各記事中の「ダイナミックバランス」という用語はスポーツ用具であるゴルフクラブに付されたものであることからして、社会生活上通常用いる意味での「ダイナミック」、「バランス」の複合語として理解し、これを力学上ないし機械力学上における厳密な意味に限定して理解するものとはいえない。)、また、そこにおいて、被控訴人佐想を、ダイナミックバランス理論のゴルフクラブに対する応用について第一発明者としたものとも認め難いことは、前記引用に係る原判決の理由第四において説示のとおりであり、更に、右各記事が、控訴人菅沼について読者、記者等に控訴人ら主張の誤解を与えるものともいえず、同控訴人の名誉を害するものとも認められないことは同理由第五に説示のとおりである。
したがって、控訴人らの右主張はいずれも失当というべきである。
二 以上によれば、控訴人らの本件請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することし、民訴法三八四条、九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)